会社の健康診断や人間ドックで行われる心電図検査。その結果用紙に、「ST-T異常」や「陰性T波」といった、見慣れない言葉と共に、「要精密検査」の判定が書かれていると、たとえ自覚症状がなくても、誰もが不安になるものです。これらの心電図の異常は、狭心症や心筋梗塞といった、虚血性心疾患の可能性を示唆している場合があり、決して放置してはならない重要なサインです。このような通知を受け取った場合に、精密検査のために受診すべき診療科は、「循環器内科」です。では、「ST-T異常」とは、具体的に何を示しているのでしょうか。心電図の波形は、P波、QRS波、T波といった、いくつかの部分から成り立っています。このうち、「ST部分」と「T波」は、心臓の筋肉(心筋)が、収縮を終えて、次の収縮のためにリラックス(再分極)していく過程を反映しています。心筋に血液を送る冠動脈に狭窄があり、心筋が血流不足(虚血)に陥ると、このリラックスの過程に異常が生じ、ST部分が正常な基線よりも低下したり、T波が平坦になったり、あるいは逆さまになったり(陰性T波)するのです。つまり、ST-T異常は、「あなたの心筋は、酸素不足で苦しんでいるかもしれませんよ」という、心電図からのメッセージなのです。ただし、健康診断の心電図は、安静時に記録されたものです。労作性狭心症のように、体を動かした時にだけ虚血が起こるタイプの場合、安静時の心電図では、全く異常が見られないことも少なくありません。また、ST-T異常は、心臓の病気だけでなく、高血圧による心肥大や、薬の影響、あるいは体質的なもので、特に病的な意味を持たない場合もあります。そのため、「ST-T異常=狭心症」と、すぐに断定できるわけではありません。循環器内科では、まず、本当に治療が必要な異常なのかどうかを、より詳しく調べるための精密検査を行います。運動負荷心電図検査や、心エコー検査、ホルター心電図検査などを通じて、心臓に負荷がかかった時に虚血が誘発されるか、心臓の動きに異常はないか、といったことを総合的に評価します。健康診断は、自覚症状のない病気を発見するための、またとない機会です。心電図の異常を指摘されたら、過度に心配する必要はありませんが、決して軽視もせず、必ず循環器の専門医の診察を受けるようにしてください。
健康診断で心電図異常、狭心症との関係は?