指先にできた、ほんの小さな傷からの細菌感染。健康な人であれば、体の免疫機能が働き、適切な治療をすれば、数日で治癒することがほとんどです。しかし、「糖尿病」の持病がある方にとっては、この指先の小さなトラブルが、重症化し、時には指の切断にも繋がりかねない、非常に危険な事態を引き起こす可能性があることを、知っておく必要があります。なぜ、糖尿病の人は、指の感染症に、特に注意しなければならないのでしょうか。その理由は、大きく三つあります。第一に、「高血糖による免疫機能の低下」です。血糖値が高い状態が続くと、細菌と戦う白血球の働きが鈍くなり、免疫システム全体が、正常に機能しなくなってしまいます。そのため、健康な人なら簡単に抑え込めるはずの、わずかな細菌の侵入に対しても、体がうまく抵抗できず、感染が容易に成立し、そして、あっという間に広がってしまうのです。第二の理由は、「血行障害」です。糖尿病の合併症の一つに、動脈硬化による血流の悪化があります。特に、手足の指先のような、末梢の血管は、血行障害の影響を最も受けやすい場所です。血流が悪くなると、感染部位に、細菌と戦うための白血球や、傷を治すための酸素、栄養素が、十分に届けられなくなります。また、処方された抗菌薬も、血流に乗って患部に届くため、血行が悪いと、薬の効果も十分に発揮されません。その結果、感染が治りにくく、重症化しやすくなるのです。そして、第三の理由が、「神経障害」です。これも糖尿病の代表的な合併症で、手足の末端の感覚が鈍くなってしまいます。そのため、傷ができても気づきにくく、発見が遅れてしまいます。また、痛みを感じにくくなっているため、感染がかなり進行して、ひどく腫れ上がるまで、本人はそれほど重症であるという自覚がない、ということも少なくありません。このように、糖尿病の人は、感染しやすく、治りにくく、そして気づきにくい、という三重苦を背負っています。もし、あなたが糖尿病の治療を受けているのであれば、日頃から、手足に傷がないかをよく観察するフットケア・ハンドケアを習慣にしてください。そして、もし、指に赤みや腫れ、痛みといった、感染の兆候を見つけたら、絶対に自己判断で様子を見ず、直ちに、かかりつけの「糖尿病内科」の主治医、あるいは「皮膚科」に相談してください。