指先、特に爪の周りが、赤く腫れ上がって、ズキズキと脈打つように痛む。触れるだけで激痛が走る。このような症状は、「ひょう疽(瘭疽)」あるいは「化膿性爪囲炎(かのうせいそういえん)」と呼ばれる、指先の代表的な細菌感染症です。これは、ささくれや深爪、巻き爪、あるいは小さな切り傷など、爪の周囲にできた、ほんの些細な傷口から、黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入し、炎症と化膿を引き起こすことで発症します。初期の段階では、爪の横あたりが少し赤くなって、軽い痛みを感じる程度ですが、放置していると、炎症は爪の根元の方まで広がり、腫れと痛みがどんどん強くなっていきます。爪の周りの皮膚が、ぷっくりと水ぶくれのように腫れ上がり、中には白や黄色っぽい膿が透けて見えるようになります。この状態になると、指を動かすことさえ困難になり、夜も眠れないほどの、拍動性の激しい痛みに悩まされることになります。このような、ひょう疽の症状で受診すべき診療科は、「皮膚科」です。皮膚科では、まず、抗菌薬(抗生物質)の内服薬を処方し、体の中から細菌の増殖を抑えます。同時に、患部には、抗菌薬の塗り薬を塗布します。炎症が軽い初期の段階であれば、この薬物療法と、患部を安静に保つことで、数日から1週間程度で改善することがほとんどです。しかし、すでに膿が大量に溜まってしまい、腫れと痛みが非常に強い場合には、薬だけではなかなか治りません。この場合に行われるのが、「切開排膿」という処置です。医師は、局所麻酔をした上で、膿が溜まっている部分の皮膚を、針やメスでごく小さく切開し、中に溜まった膿を丁寧に圧迫して排出します。この処置によって、内圧が下がるため、あれほど強かったズキズキとした痛みは、驚くほど速やかに軽減します。ひょう疽は、決して珍しい病気ではありませんが、甘く見てはいけません。治療が遅れると、爪が変形してしまったり、稀にですが、感染が骨にまで及んでしまう「骨髄炎」という、重篤な状態に進行する可能性もゼロではありません。爪の周りの異変に気づいたら、我慢せず、早めに皮膚科医に相談することが大切です。