足がかゆい、皮がむける。そう感じた時、多くの人がまず考えるのは、ドラッグストアで市販の水虫薬を買ってきて、自分で治そうとすることかもしれません。確かに、市販薬は手軽で便利ですが、そこにはいくつかの落とし穴が潜んでいます。自己判断による水虫治療は、時として、症状を悪化させたり、治癒を遅らせたりする危険性をはらんでいるのです。まず、最大のリスクは、「そもそも水虫ではなかった」という可能性です。足の裏の皮がむけたり、水ぶくれができたりする病気は、水虫だけではありません。例えば、汗が原因で起こる「汗疱(異汗性湿疹)」や、何かにかぶれて起こる「接触皮膚炎」など、水虫とそっくりな症状を示す皮膚病は数多く存在します。もし、これらの水虫ではない病気に、市販の水虫薬(抗真菌薬)を塗り続けても、当然ながら効果はありません。それどころか、薬の成分による刺激で、かぶれを起こし、症状がさらに悪化してしまうことさえあります。逆のケースも、同様に危険です。水虫であるにもかかわらず、ただの湿疹だと思い込み、市販のステロイド軟膏(湿疹やかぶれの薬)を塗ってしまうと、どうなるでしょうか。ステロイドには、免疫を抑える作用があるため、塗った直後は、かゆみや炎症が一時的に和らぐことがあります。しかし、水虫の原因である白癬菌にとっては、免疫という天敵がいなくなり、かえって増殖しやすい、好都合な環境が作られてしまいます。その結果、水虫はさらに広範囲に悪化し、治療がより困難な状態になってしまうのです。これを「無自覚なステロイド外用による症状の悪化」を意味する、「ステロイドいんきん」と呼ぶこともあります。このように、自己判断による治療は、的確な診断という土台がないままに行う、非常にリスクの高い行為です。確実に治すためには、まず皮膚科を受診し、顕微鏡検査で、本当に白癬菌がいるのかどうかを確定させてもらうこと。それが、遠回りのようで、実は最も安全で確実な治療への近道なのです。
市販薬で悪化?水虫の自己判断は危険