狭心症の典型的な症状といえば、「胸が締め付けられるような痛み」ですが、特に女性の場合、このような典型的な症状が現れず、一見すると心臓とは関係ないような、「非典型的な症状」として発症することが少なくありません。このことが、診断の遅れに繋がり、見過ごされているうちに病気が進行してしまう危険性があるため、女性ならではの症状のサインを知っておくことが非常に重要です。女性の狭心症でよく見られる非典型的な症状として、まず挙げられるのが、胸の痛みではなく、「放散痛」が主体となるケースです。胸はそれほど痛くないのに、左肩や背中、あるいは両肩の凝り、顎や歯の痛み、みぞおちの不快感(胃痛と間違われることもあります)といった症状が、体を動かした時に現れ、休むと楽になる、というパターンです。これらは、心臓の痛みを伝える神経が、他の部位の神経と合流しているために起こる関連痛であり、心臓からのSOSサインである可能性があります。また、はっきりとした痛みではなく、「胸の圧迫感」や「息苦しさ」、「動悸」といった、曖昧な症状として感じられることもあります。特に、精神的なストレスが引き金となって発症する、微小血管狭心症というタイプの狭心症は、女性に多いとされており、こうした非典型的な症状を呈することが多いと言われています。さらに、「原因不明の極度の疲労感」も、見逃してはならないサインです。これまで普通にできていた家事や買い物をしただけで、ひどく疲れてしまい、動けなくなるといった症状が、実は心筋への血流不足によって引き起こされていることもあるのです。なぜ、女性は非典型的な症状が多いのでしょうか。その理由は、まだ完全には解明されていませんが、女性ホルモンの影響や、男性に比べて心臓の血管が細いこと、痛みの感じ方の性差などが関係しているのではないかと考えられています。大切なのは、「狭心症の痛みは、必ずしも胸だけとは限らない」と知っておくことです。もし、あなたが、特に更年期以降の女性で、体を動かした時に決まって現れる、原因不明の肩こりや顎の痛み、息切れ、疲労感などに悩んでいるなら、一度、循環器内科で相談してみることをお勧めします。
女性の狭心症、見逃されやすい非典型的な症状