大人の微熱と咳が数週間以上も続く場合、それは単なる風邪の治りかけではなく、「マイコプラズマ肺炎」や「百日咳」といった、特殊な細菌感染症の可能性があります。これらの感染症は、症状が長引きやすく、また、一般的な風邪薬や一部の抗生物質(抗菌薬)では効果が得られにくいことがあるため、注意が必要です。まず、マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという細菌の一種によって引き起こされる呼吸器感染症です。特に学童期の子どもや若い成人に多く見られますが、どの年齢層でもかかる可能性があります。主な症状は、乾いた頑固な咳が長く続くことです。発作的に激しく咳き込むこともあり、夜間や早朝に悪化しやすい傾向があります。発熱もよく見られ、38度以上の高熱が出ることもあれば、微熱がだらだらと続くこともあります。その他、頭痛、全身倦怠感、喉の痛みといった症状を伴うこともあります。マイコプラズマは細胞壁を持たないため、ペニシリン系やセフェム系といった細胞壁に作用する抗生物質は効果がありません。治療には、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系といった抗生物質が用いられます。次に、百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。近年、ワクチンの効果が時間とともに低下することなどから、大人の百日咳患者が増加傾向にあります。大人の百日咳は、子どものような典型的な咳発作(レプリーゼや笛声)が見られにくく、単に長引く頑固な咳だけが続くことも多いです。一度咳き込むとなかなか止まらず、嘔吐を伴うこともあります。微熱や鼻水といった初期症状の後、徐々に咳がひどくなっていきます。百日咳菌に対しても、マクロライド系の抗生物質が有効ですが、咳が出始めてから時間が経ってしまっていると、咳症状そのものを劇的に改善させる効果は限定的です。しかし、菌の排出を抑え、周囲への感染を防ぐ目的で投与されます。これらの感染症が疑われる場合は、呼吸器内科や内科を受診し、適切な検査(血液検査での抗体価測定や、咽頭拭い液を用いたPCR検査など)を受け、診断を確定してもらい、有効な抗生物質による治療を開始することが重要です。