病院の浴室は、不特定多数の、しかも免疫力が低下した患者様が利用する場所であるため、その管理には一般の施設とは比較にならないほど高度な「衛生エンジニアリング」が導入されています。病院のお風呂がどんな感じなのかを、細菌学的な安全性と設備保全の観点から分析します。まず第一に挙げられるのが、水質管理の徹底です。特に人工的な水環境で問題となるレジオネラ属菌の増殖を防ぐため、浴室の給湯システムには定期的な加熱殺菌や、塩素剤による自動消毒装置が組み込まれています。浴槽の湯は、一人ひとりの使用ごとに完全に抜き去り、高圧洗浄とアルコール消毒を行う「単独入浴・完全換水方式」が多くの医療機関で採用されています。これは、大浴場のような循環式よりも遥かに高いコストがかかりますが、交差感染(クロスカット)を防ぐための絶対的なプロトコルです。次に、物理的な構造における「除染のしやすさ」です。病院の浴室の壁や床には、汚れが溜まりやすい目地が極力少なく、かつ強力な消毒薬に耐えうる素材が選定されています。角の部分はR形状(丸み)を持たせ、拭き取り残しがないように設計されています。排水口のトラップ構造も、汚水の逆流や飛沫の飛散を最小限に抑える特殊な形状が採用されており、目に見えない空気の流れまで制御されているのです。換気システムについても、一般的な浴室の数倍の換気回数が設定されています。これは単に湯気を逃がすためだけではなく、空気中の病原体の濃度を速やかに希釈し、浴室内の空気を常にフレッシュな状態に保つためです。また、入浴に使用する備品、例えばシャワーチェアや介助用ベルトなどは、すべてオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)や薬液浸漬に対応した医療グレードの素材で作られています。技術者的な視点から見れば、病院の浴室は「美しさ」を競う場所ではなく、「不潔なものを完全に無害化し、次のユーザーにゼロリセットした状態で提供する」という、極めて高度なロジスティクスが完結する場です。私たちが何気なく座っている椅子も、浴びているお湯も、その裏側には膨大なチェックリストと、技術的な裏付けが存在します。病院のお風呂がどこか「ストイック」で「研ぎ澄まされた清潔感」を湛えているのは、それが医学という科学によって管理された聖域であるからに他なりません。患者様が安心して肌を晒せる環境を維持するために、建物というハードウェアと、清掃・点検というソフトウェアが完璧に同期しているのです。
院内感染を防ぐ浴室管理の技術的側面