私はかつて、エアコンの効いた快適なオフィスで働くことを何よりの贅沢だと思っていました。しかし、ある年の夏、その「快適さ」が私の身体を蝕み、人生で最も過酷な発熱を経験することになるとは夢にも思っていませんでした。当時、私が勤めていた会社は最新のビルにあり、全館空調で常に二十二度前後に設定されていました。外回りの営業から戻る私にとって、その冷気は最初は天国のように感じられましたが、数時間が経過すると、デスクに座っているだけで指先が氷のように冷たくなり、膝から下が感覚を失うほどに強張っていくのを感じていました。周囲の男性社員たちは「涼しくて最高だ」と言っていましたが、私にとっては、そこは雪山のような過酷な環境でした。最初の異変は、夕方になると決まって襲ってくる激しい倦怠感と、喉の奥が焼けるような違和感でした。最初はただの疲れだと思って栄養ドリンクで誤魔化していましたが、ある夜、帰宅途中に全身が激しく震え出し、足元がふらついて歩けなくなりました。自宅に戻り、熱を測るとすでに三十九度を超えていました。驚いたのは、その熱の出方です。普通の風邪なら汗をかけば下がりますが、エアコンで冷え切った私の身体は汗をかく機能が麻痺しており、熱が身体の中にこもって逃げ場を失っているようでした。翌朝、病院へ行くと医師から「重度の冷房病からくる免疫低下と、それによるウイルス感染です」と告げられました。医師は、冷えによって血流が止まり、免疫細胞が戦場に辿り着けていない状態だったと説明してくれました。結局、熱が下がるまでに五日間、元の体力に戻るまでには一ヶ月以上の時間を要しました。その間、私は一枚の薄いブラウスで冷房の下に居続けた自分の無知を激しく後悔しました。会社に戻ってからは、ひざ掛け、厚手の靴下、そしてカイロを常備し、温かいお茶をこまめに飲むようにしました。エアコンによる体調不良は、静かに、しかし確実に忍び寄ってきます。「寒い」と感じた瞬間に身体は悲鳴を上げているのです。私はあの日以来、設定温度という数字ではなく、自分の肌が感じる感覚を何よりも信じるようになりました。夏の発熱は、身体の芯が冷え切っているという逆説的な不調の結果です。今、冷房の下で我慢を続けている人がいたら、伝えたいことがあります。その我慢は、いつか高熱という形であなたを倒します。自分の身を守るために、羽織るものを一枚、温かい飲み物を一杯、今すぐに用意してください。それは決して甘えではなく、プロフェッショナルとして働き続けるための、最低限の自己管理なのですから。