診察室を訪れる患者様の多くが「胸がドキドキするのですが、これって病院に来たほうが良かったのでしょうか」と、どこか申し訳なさそうに質問されます。循環器内科医としての私の答えは常に、「そのドキドキを感じた瞬間に、受診の必要性は発生しています」というものです。動悸は、心臓の働きを司る電気信号の乱れ、あるいはポンプ機能の低下を知らせる重要な客観的データです。本人が不快感や不安を覚えている以上、そこには必ず何らかの「ゆらぎ」が存在しており、それを放置して良いかどうかを判断するのは医師の仕事であって、患者様の我慢に委ねるべきではありません。私たちが特に警戒し、緊急の受診を求める「レッドフラッグ」についてお話ししましょう。第一に、動悸に伴う「失神」や「一過性の意識喪失」です。これは心臓から脳への血液供給が一瞬途絶えた証拠であり、放置すれば突然死を招く重篤な不整脈の前兆である可能性が極めて高いです。第二に、階段を一段上るだけで息が切れるような、明らかに以前とは違う「労作時の動悸」です。これは心臓の弁の不具合や心筋症など、構造的な問題を示唆しています。第三に、脈が完全にバラバラになる、あるいは一分間に四十回以下、百二十回以上といった「数値的な異常」を伴う動悸です。現代ではスマートウォッチなどで心拍数を測定できるため、これらのデータを持って来院されることは非常に有用です。診察の現場では、私たちは心電図や超音波検査を駆使して、心臓というエンジンの「不具合箇所」を特定します。特に「発作性」の動悸の場合、病院に来たときには脈が正常に戻っていることが多いため、二十四時間のホルター心電図などを用いて、患者様の日常に潜む異常をあぶり出します。受診のアドバイスとして強調したいのは、動悸を「ストレスのせい」という言葉で片付けないことです。確かにストレスは自律神経を乱しますが、その結果として起きる不整脈が、心臓そのものにダメージを与えることもあるのです。また、女性の場合は更年期障害や貧血が隠れていることも多く、それらを見逃さないためにも血液検査を含めた多角的なチェックが必要です。病院に行くタイミングを迷うくらいなら、まずは「安心を買いに行く」つもりで一度相談に来てください。検査の結果、何もなければそれが一番の良薬となります。そして、もし何かが見つかったとしても、現代医学の進歩により、カテーテル治療や最新の薬剤によって、以前と変わらない生活を取り戻すことができるのです。動悸は、あなたの心臓があなたに「もっと自分を大切にしてほしい」と送っている手紙のようなもの。その封を切って中身を読む作業を、私たち専門医にぜひ手伝わせていただきたいと願っています。
循環器内科医が明かす動悸の危険信号と受診の目安